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 「あッち――――!」
流れた汗をぬぐって、留美奈がいった。
ツンツン立った黒い髪。白いハチマキ。名刀〈小烏丸〉を手にした少年と、金髪の少女、そして眼鏡をかけた少年が、街を歩いている。
ここは地下世界。
空はなく、太陽もない。――だが人工の光が、まぶしいほどにあたりを照らしていた。
その街に入ったとたん、気温が上がった。
異様な熱気だ。
地面から陽炎が立って、あたりの風景がゆらいで見える。
「…………」 |
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留美奈は眼を細めて、上を見あげた。
天井にある、たくさんの照明。まるでテレビの収録スタジオのようなそれは、地下世界に人工的に昼をもたらす疑似太陽光システムである。
光は強いが、「昼」はいつもこうで、とくに異常はないようなのだが――。
留美奈は顎からしたたり落ちる汗をぬぐいながら、
「"真夏"って感じだぜ。地下世界にも季節はあるんだな」
「正確には、ないわ」
長い金髪を暑そうにかきあげて、チェルシーがいった。
黒いセーターと、黒いミニスカートの上に、灰色のマントをはおっている。
いつもの制服姿ではない。この街で、公司の制服を着ているのは危険だからだ。
「この地区は、地熱と、発電プラントの熱の影響を受けてるのよ」
「――そういえば、暦の上ではそろそろ夏ですよね」
眼鏡をあげて顔の汗をハンカチでふきながら、銀之助がいった。
すさんだ街だった。
ひび割れた建物。ぼろぼろの看板。道には砕けたガラスが散らばっている。
くずれた建物も多い。あちこちで瓦礫が山になっている。
廃墟――のようだが、人がいないわけではない。
疲れた顔をした人たちが、とぼとぼと通りを歩いている。
ぼろぼろの服を着たホームレスたちが、道ばたにうずくまっている。
薄暗い路地には、ネズミが走っている。
「……ひどい街ね」
チェルシーがつぶやいた。留美奈はいぶかしむような顔をする。
「こんなとこで、公司の情報が手に入るのかよ?」
「ここは、レジスタンスとの交戦地区よ。反公司の勢力の拠点。公司の情報も集まるはずだわ」
そのとき――。
「あっ、あれ見て!」
銀之助が指さした。
留美奈たちが見ると、いくつかの黒い影が、瓦礫の上を飛び跳ねるように移動していた。
黒いバトルスーツ。仮面のようなものをつけて、鉤爪状の武器を両手に装備した怪人。
陰兵と呼ばれる、公司の戦闘員だ。
誰かを追っていた黒い影たちは、輪を描くように静止した。
その中心に、女の子がいる。
十歳くらいだろうか。薄茶色のまっすぐな髪。だぶだぶのシャツを着てショートパンツをはいている。
大きな眼、紅い唇。可愛らしい女の子だ。
少女は、紙包みをしっかりと胸に抱いて、陰兵たちをにらみつけた。
陰兵たちが輪を縮めた。
少女は悲鳴をあげた。
「やめて――――!」
そのとき。鈍い音がして、数人の陰兵がふっとんだ。
「よってたかって女のコをいじめてんじゃねえよッ!」
小烏丸をかまえた留美奈が怒鳴った。
「あんたたち、サイテーねッ!」
すさまじいパンチを放って、チェルシーが叫んだ。
「その黒い格好、ゴキブリみたいでムカつくのよね!」
チェルシーの回し蹴りで、数人の陰兵がふっとぶ。
留美奈が振りかざした小烏丸が風を巻き起こした。
「おらおら――! とっとと消えやがれ!」
チェルシーが放った重力波が地面をめりこませる。
「あたしとやりあおうなんて、十年早いわッ!」
攻撃のチャンスをうかがっていた陰兵に、銀之助が銃を向けた。
「くらえ、炎だ――!」
引き金をひくと、銃口から炎が噴き出した。
練氣銃。銀之助の師匠・翠が考案した、属性を操ることのできる銃である。
陰兵は炎につつまれて、一瞬で黒こげになった。
陰兵たちは、あっというまに倒された。
最後に残った二人の陰兵は、顔を見合わせると、うなずきあって、高くジャンプした。
あわてて走り去ってゆく。――どうやら撤退したようだ。
留美奈は女の子を見た。
「大丈夫か――?」
チェルシーが少女に頬笑みかける。
「こわいめにあったわね。でも、もう安心だからね」
女の子は顔をあげた。大きな眼は涙にうるんでいる。
「ありがとう……!」
紙包みを胸に抱きしめて、女の子は留美奈たちにお礼をいった。
銀之助が声をあげた。
「あっ、ケガしてるよ!」
女の子はどこかで転んだのか、膝を大きくすりむいていた。傷口からは血が流れている。
チェルシーが留美奈を見た。
「それ、洗ったばかりでキレイでしょ? かしなさいよ」
「え、ああ」
留美奈はハチマキをほどいた。チェルシーがそれを受け取る。
「ほら、ちょっと座って」
チェルシーは留美奈のハチマキを包帯がわりにして、少女の足のケガの応急処置をした。
「お嬢ちゃん、おうちはどこ?」
「この先――」
眼を伏せて、心細そうに少女はいう。
――この子をひとりにしたら、また陰兵が襲ってくるかもしれない。
「うちまで送りましょう」
「そうだな」
チェルシーと留美奈はうなずきあった。

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